キーボ

後る

 みなさん。

 大好きでした。
 ボクは大好きなみなさんと、順番に、お別れをしました。その後、淋しくなかったと言ったら、嘘になります。知り合いや友と呼べる人はまだまだいますが、ボクの中で、やはり、みなさんは特別な方々でしたので。
 でも、ボクは一人残ることに、後ろ向きにはなりませんでした。それは、みなさんがかつて、ボクと過ごしてくれたからに他なりません。ボクと慥かに生きてくれた事実があったからに、他なりません。
 ここにはたくさんの、みなさんの生きた証がありました。先に言った、知り合いや友達なども、みなさんとともに生きる中で縁が結ばれていった方たちですし、みなさんそれぞれのご活躍の結晶は、今でも多く目に耳にし、触れることができます。
 いえ、たとえ、形に残るものがなくたって、ボクはこの世界から目を背ける気になんてならなかったでしょう。
 なぜならキミたちが生きた世界だからです。
 キミたちが生きて、キミたちがそれぞれのやりかたで愛した世界だから。ボクの大切な人たちが、それぞれに大切にした世界だから。だからボクは、キミたちが大切にした物を、キミたちが大切にした人を、キミたちが大切にした想いを、少しでも……守りたいと、そう思ったんです。
 今、何人か笑ったでしょう、絶対。該当者は後で問い詰めますからね。
 ともあれ、ボクは仰るとおり、秀でて何ができるというわけでもないロボットです。ある時期からは自分で自分を改造したり、軽いメンテナンスをしたりすることも覚えましたが、何事にも限界はあります。
 だからせめて、見届けようと思いました。
 自分にできる範囲で、みなさんの大切に生きた世界を守って、その行く先を、できる限り見届けたい。そういう欲求が、ボクの中に、柔らかい光を灯すように生まれてきました。そうしてその欲が、ボクをして、キミたちの発った後のこの世界を、穏やかに生かしてくれていたのです。
 ずっと、その欲に、生かされてきました。ですから、ボクはボクの欲どおりに、キミたちの生きた世界を、キミたちの想いの受け継がれてゆく様子を、ずっと、ずっと、先まで、見てきたんですよ。
 ……ふっふっふ、気になりますか? 気になるでしょう! さあ、ボクからその話を聴きたくなったでしょう! ボクに会いたくなったでしょう!
 そんなわけで、キミたちはボクを追い返せなくなりましたね。……なりましたよね?
 さて。
 ボクも長く生きました。そろそろじゃないかと思っているんです。弱音ではなくて、ただそういう時が来たんだということです。

 そうです。これが本題なんです。弱音ではないというのは、本当なのですが、やっぱりどこかでまだ、ボクは怯えているのかもしれません。不安、なのかもしれません。こんなに長々と、前置きをしてしまったことは、そういう理由だと解釈してください。すみませんでした。
 でも、まだ読んでくれていますよね。
 どれだけ長くても読んでくれていますよね。
 一言なんです。あと一言だけ、聞いてください。ボクはこれだけ、これだけを、みなさんに言いたかった、訊きたかった、だから、聞いて、聞いて、ください。

 ここを発ったら、ボクはまたみなさんに会えますか。

 ボクはロボットですけど、みなさんと生きたボクの魂はまた、そちらで、みなさんに、

 ……会えますよね。

 ……今は少しだけ、それが、楽しみなんです。

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