からからと氷が鳴る。
厚いグラスに守られたサイダーが泡を抱いてひかる。喫茶店の、麻のコースターが汗を呑む。
安いストローを摘まんで気のないように弄っている、お前の指が、その皮膚の表面で窓辺の暗い陽を溶かした。
「キミはさあ。……そうやって、言葉を飾るの、止めたら」
(眼狛『そのセリフ、そっくりそのまま返す』)
* * *
――これは七海さんからもらった飴の袋。これはソニアさんからもらったビーズのボトル。これは田中クンからもらったガラスのかけら。これは左右田クンからもらった折り紙の金。
これは日向クンがくれた。
日向クンがくれた。
大嫌いだ。
嫌いだ嫌いだ嫌いだ嫌いだ嫌いだ嫌いだ大嫌いだ。
(狛枝『捨てられないガラクタ』)
* * *
「ねえ田中クン一生のお願い!」
「断る」
「キスして!」
「聞いちゃねえ」
「キスして!」
「断る」
「キス!」
「断る」
「キス」
「断る」
「……」
「……」
「……ちゅー、して……?」
「その禍々しき呪詛の錬成を即刻打ち止めろ」
(眼狛『一生のお願い』)
* * *
「狛枝くん、暇?」
「暇じゃあないよ。だって七海さんといるんだもの。七海さんは、暇かもしれないけれど」
「私も、暇じゃあないよ。だって狛枝くんといるんだもん。忙しい、忙しい」
「忙しい、の? ぼんやり座ってるだけだよね、ボクら」
「忙しいよ、心が休みなくぐるぐるしてて、忙しないったら」
(七狛『言うと思った』)
* * *
こまえだなぎとくん。
きみはよくがんばりましたね。
よくいきた。たいへんえらかった。
「……――」
霞がかりそうな思考を肉体の痛みで冴えさせた。文字通り必死で。
これは魂の解放ではなく。己で定めた己の掟に反したという己の罪への、己による制裁だ。
それだけの、ことだ。
(狛枝『君の最期に』)
* * *
「不思議なもんだね」
「……」
抜けるような空という青色が実在することに、毎夏制服の白い襟首へぱたぱたと風を取り込みながらようやく気が付くのだ。
空いたジュース缶をぺこぺこ凹ませる、左手を眺める。
「……固より、人の子に計り知れる命運など、高が知れている」
「うん。そうだね」
(眼+狛『あの日から一番遠い僕ら』)
* * *
未知の価値観を排するのは勿体無い、か。確かに、ずっと〝分かる〟ことが理解であり共感であり信頼だと思ってた俺にとって、〝分から〟なくてもいいんだって思えるようになったことは、大切な糧だな。別に、馬鹿やって笑い合える〝あいつ〟との今の仲が得られなくたって、何も勿体無くはなかったけど。
(日+狛『だいたいあいつのせい』)
* * *
……困ったなあ。
何が困るって、そう言いながら本心ではさほど困ってない自分自身に、一番困ってるよ。
よくもボクをこんな場所へ引き摺り込んでくれたね。普遍で強固なロジックは何一つ貫いちゃいない、可変で気紛れで、脆弱な糸の織り成す世界へさ。
あーあ。
ほんと、困っちゃうな。
(日+狛『だいたいあいつのせい』)