新発売、チェリー&ピーチドリンク。
曰くさくらんぼと桃の果汁を使った飲み物である。ざくざくカットのナタデココ入り。
チルドカップなる器に満たされた液体をストローを使って吸い上げるという行為には殆ど慣れた。コンビニから梵納寺へ帰る途中、小さな公園に寄って、ふたり並んで手頃な遊具に凭れながら、こうして飲み物など開ける。
「……美味いか」
「ああ。甘くて美味い」
「それはよかったな」
言葉に反し塩っぱいような声で、梵天が言う。あちらは紙パック入りの緑茶を何やら面白くもないような顔で啜りつつ、俺のことを横目に、殆ど睨んでいるといっていいほどのじっとりとした目付きで見詰めてくるのだった。
「おい、音を立てて啜るのは行儀が悪いぞ」
「別に……今は他に誰もいないだろう」
「私がいるから言ってるんだ」
さくらんぼと白桃。ナタデココ入り。透明なカップに薄い黄色と乳白色とが揺れて、包装にあしらわれた桜色が、この品の全体を美しく引き立てていた。
これを選んだのは、この色合いがどうにも梵天を彷彿とさせたからなのだけれども。実際の彼と並んでこれを飲んでいれば、一体この男のどこを舐めればこんなふうに甘い味がするものかと思われてくる。どうやら、これは梵天の味ではなかったらしい。別にそれを求めて手を伸ばしたわけではないけれども。
「お前のは美味いか」
「うん……? うん、美味い。私の好みだな」
「この前のとどっちがいい」
「……私が買ったもの、覚えていたのか?」
「見ていたからな。あのときも、お前の飲んでいた茶の話をしたし」
「ん……うん、そうだった」
ずず、と、梵天の咥えたストローが紙パックの底で音を立てた。
「行儀が悪いぞ、梵天」
「うるひゃい……おまえがへんなことをいうから」
何が変なのか全く分からないし、俄かに開き直ったのか頬を赤くしてがじがじとストローを嚙み潰し始めた梵天の行動の方が余程変だ。
「……今日の茶のほうがすきだ……」
ずるずると音を立てて紙パックを畳んでいきながら、梵天が俺の問い掛けに答えた。
「そうか」
「……おまえは」
「ん?」
「このあいだの……メロンスムージーと、それと……どっちが好きだ……」
なんとなく梵天の目は遠くを見ているようなので、行儀の悪いところを見られた恥ずかしさを誤魔化すために適当な話題を投げてきているのだろう。いつも凛と伸びている背筋を所在なさげにやや丸めて、子どものようにストローへ八つ当たりしているようなのは、却って彼の愛嬌と映る。
「色だけで言えば、今日のが一番だな」
「色……? 味でなく見た目で美味い不味いを判断していたのか、お前」
「いや。今日のは偶然、色がよかった」
「……ふぅん。よく分からんが」
梵天の目が、極限まで小さく畳み終えた紙パックから離れ、ちら、と俺の手許を見る。
「そういう色が好きなのか?」
嘲るでも茶化すでもない、分かりにくいくらいの柔らかさの声が訊く。
俺は目を見開いた。
今までになかった視点を教えられたような、清々しい風が胸に吹き抜ける感覚を覚えた。
「好き……か。……或いはそうなのかもしれん。たしかに、隣にあって悪い心地はしない」
「なんだ、らしくなくまどろっこしい言い回しだな」
ふふ、と梵天が笑う。たかだか色の話で仰々しい、とも続ける。
「俺にとっては大事なことなんだ」
「そうか」
優しい眼差しで、梵天は頷いた。
もう一度、その目が向けられる。
チェリー&ピーチドリンク。薄黄色の蜜。乳白の果肉。澄んだ器に刷いた桜色、心地よい酸味と、飽きのこない食感と、甘い、甘い、甘い、
「――私も、嫌いではないな」
その色は。
俺の、好んで止まない。
こよなく好む
