タバケイ

ミルクティに哀、落ちて濃い

 愛してると言われる。
 よく言われる。

「――ケイン。なぁ、」

 その度に私は、困る。
 〝一瞬のために燃え上がる〟ということがよく分からないのだ。

 私などが誰かに恋をされる謂れはない。
 それは分かっている。
 けれども、彼は軽薄な冗談でこんな言葉を囁くようなひとではない。
 それもまた、私が観察に基づいて下した確かな判断だった。

 つまり、彼は本気なのだ。
 ――この一瞬だけ、は。
 私にはそれが分からない。

 本気で燃え上がってくれる。私を恋い慕ってくれている……と、言ってくれている。けれども同時に彼は、その恋に期限を決めている。具体的にいついつまでの関係だ、と言われたことはないし、多分そういうものでもない。けれども彼の中では、期限があることが前提の恋なのだ。期限があることが、恋という行為の前提なのだ。
 それはある種の、大人の嗜みというものなのかもしれない。後腐れなく、お互いに暗黙の了解をし合って、恋という期間の内で最大限に楽しんで、味が無くなる前に、幕を引く。そういうルールに則った、節度ある大人の遊び。
 ……私には、それが、分かれない。
 その遊びの楽しさも。
 その行為で満たされるだろう彼の心も。
 その束の間の相手に、私が選ばれているという現実も。

 私とて、いつまでも彼と過ごす時間が続くのだとは当然考えていなかった。
 出会った瞬間から、そう遠くはない別れの時を意識した。それは私にとっての、生きる上での前提だった。誰の傍にも留まることはできない。穏やかな刹那は仮初めの奇跡で、私の本質は流浪だった。

 それでも。

 そうであると諦めることと、そうであることを心から受け入れることとは、全くの別物であるのに。

 別れを覚悟しているからといって、その時を平然と待てるわけではない。
 いつか別れると分かっていても、その時が訪れないことを、私は願ってしまうというのに。
 ありえない未来を、それでも必死に夢想せずにはいられないというのに。
 殺した筈の心が、あなたの傍で擦り切れて悲鳴を上げそうになるほどに、切実に、……。

 だから、私には分からない。
 期限付きの恋にこそ燃え上がるあなたが。
 愛されないと知りつつ、そんなあなたに恋い焦がれてしまう自分自身が。
 分からなくて、
 悔しくて、
 でも本当は、

 ……分からないままでもいいから、埋めてほしかった。

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