タバケイ

ミルクティに哀、落ちて濃い

 これが最後の恋だという気がしている。
 理由はよく分からない。ただ、このひとを離してはいけない、と強く感じる。
 だから、足掻くだけ足掻いて、踠けるだけ踠こうと思う。
 それがたとえ、大人らしい振舞いではなかったとしても。
 心を押し殺した末に途方も無い後悔を手にすることになるよりは、きっと増しな筈だから

 愛していると何度も伝えよう。彼にこの心が伝わるように。
 何度でも二人で恋に落ちよう。熱の冷める隙などは、決して運命に与えぬように。

「――なぁ、誰のこと考えてるの」

 彼の声が胸に落ちる。
 恋以上の深さで誰かを愛する、彼の横顔が好きだった。恋をした自分は、今でも変わらずにその横顔を愛している。
 それは本当で、そこに嘘はない。
 でも。

 ……偶には俺のことも見てほしい。

 こんな子どもっぽい駄々も、実のところは本音なんだ。

 伝えてしまったら、君はどんな顔をするのだろう。
 好きだと零す度照れたように瞬く目、愛してると告げる度胡乱げに引き結ばれる唇、肌へ触れる度、一瞬強張って、確かめるように徐々に身体を預けてくれる温かさ……そのどれとも違う、君の新しい表情を想像する。
 拒絶されたら、どうしようか。冗談だって笑って、誤魔化してしまえばいいかな。
 傷付けてしまったら、どうしよう。ふたりを見つめる、彼の横顔を見つめる。そのときは、素直に、謝ろう。もうこんなことは言わないからって。
 ただ、それでも思うことだけは許されたい。
 いい匂いのするお皿を運んで、ふたりがとことことキッチンから現れる。
 それを愛おしい笑顔で迎える君に、好きだと逐一伝えることを、先ずは積み重ねていこう。
 そうして積み重ねることでいつか、君が靡いてくれたなら。君の恋を乞う俺の愛を、甘く笑って受け取ってくれるくらいに、いつか君も、俺のことを愛してくれたのなら。
 そうしたなら俺の甘い駄々も、君を傷付けることもなく、手渡すことができるだろうから。

 だから、先ずは。

「そんな君が好きなんだけどな」

 逐一、一々、口にする。

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