ごう、と突風が吹き上がる。岩窟の中に眠った塵を荒々しく巻き込みながら、地を這い昇り瞬く間に大きくうねりを打つ。激流が渦を成した大気の中心に立てば、その外で怯む敵兵の表情がよく望めた。
よう、と男は振り向かないまま、自分の背中へ声を投げる。
「大概ツイてないねえ、お前さんも」
耳許で逆巻く風切り音を、皮肉を練り込んだ笑みで引き破る。
「よりによってこの小生と背を預け合うことになっちまうたぁ。それともお前さんの不運と小生の不運、掛け合わせりゃちったぁマシな方へ動くのか?」
それに返ったのは、ふん、という鼻笑いだった。背に掛けられた軽口を去なした男は、同じように諧謔を塗り込めた唇で、飄々とのたまう。
「何言ってやがる。――ツキを司る出雲の月神が肩を持ったんだぜ? 彗星に見放されたお前にとっちゃ、これ以上もねえ、最高の星巡りじゃねえか」
言われた男は徐に、眼前の岩壁を振り仰ぐ。
「ああ……成程。違いない」
微かに漏れ出た吐息は、愉しげに震えた。
途端、共鳴するように、二人を取り巻く風がざあざあと唸り吼えて重量を増す。加速する。
ぎら、と、暗がりの中にあって何の仕業に因るか、二対の瞳が鋭く深遠な光を点した。
傷つき果てた肉体に最早箍は掛からない。器から噴き出た気の奔流は、飼い主の性質に忠実に、外界を粗野に狂暴にぬたくりまわる。疾風を飼い放した二人の男は、互いに背を向き合わせたままに、その口許へひとしく驕慢な弧を引いた。
畏れ慄き、竦み畏まる青人草――吹き荒ぶ重厚な壁の向こう側を、獰猛な四つの目が睨み据える。
刹那、鉄が疾風と駆ける。