きらり、砂が舞って風が光る。
くるりと柔らかな竜巻を纏って現れた男は、紗のようなそれを刀の一振りで軽やかに払った。
「――よう、暗の官兵衛」
気丈そうに切れ上がっている目許が、少し細まって、こちらを見た。
「相変わらず泥臭ぇなぁ、お前は」
「お前さんこそ、いつ見てもきな臭いね」
茶化す声音に諧謔けて返す。
紅萩色の衣を翻して晴久は微笑った。
「いやいや、俺の土地に火が点くようなものは何もねえよ? 立つと言ったら砂煙くらいなもんさ」
「ああ、まあ確かに、あのだだっ広い砂漠じゃあな……」
嘯く言葉へ字面どおりの相槌を打ってから、官兵衛ははっとした。
「……って! そうだよ、砂!
――いつも小生を見下すようなこと言ってるがね、お前さんだって砂の下這い擦って、土の下で足掻いてる小生と大差ないじゃないか。同じ穴の狢だよ! 文字どおりのな!」
ぷんすかと喚けば、いとも軽く鼻であしらわれる。
「お前と一緒にすんな。砂と土とじゃそれこそ雲泥の差だ」
「砂だって水加えりゃあ泥にもなんだろうが」
「乾いたところで礫に砂ほどの繊細さはないだろ」
なんという高慢。
「まったく……鼻持ちならんのはお前さんのほうだよ。その減らず口がね」
ぶうたれると、「黙ったほうが負けだからな、口喧嘩は」と晴久は勝気に口の端を上げた。官兵衛は溜息を吐く。
「小生は、お前さんと喧嘩しに来たわけじゃないんだがね」
「ああ――そろそろ、日の女神様が恋しくて我慢ならなくなったってところだろ?」
そんな言葉がすとんと寄越される。官兵衛は僅か見張った目許を、すぐににやりと引き崩した。
「なんだ……案外話が早くて助かるね、お前さんは」
あれだ、お前さんもひょっとして機運に恵まれん性質だな? だからお前と一緒にすんじゃねえ、砂と礫とは違う。線の細さが、だろ? そういう即物的な発想しかできねえからお前は泥なんだよ。泥って言うな!
晴久は天を仰いだ。釣られて官兵衛も空を見る。――そこに映る、満天の星の光を。
「――お前、あの中のどれが欲しい」
つと、神妙な声が問うた。
「あぁ? ……一番は瑞兆の箒星……いや、お天道さんを食らってやろうってんだ、先ずは宵の王を味方につけるべきだな」
手枷を掲げ、右手の指でその望むところを指し示した。
「――月だ。今は爪痕みたいに細っこい、あれを掴む」
他の星々の中で際立って大きなそれを、睨めつけるように見遣る。ふ、と前方の男が息を零す気配がした。
「なかなかいい判断するじゃねえか。……その慧眼ってのは、虚仮威しじゃねえらしいな」
賞賛を真に受けて面食らい、頭を振った。
「若造が言ってくれるね」
「その若造を縁に来たんだろ? ――けどお前が選んで手繰ったその糸、大当たりだ」
晴久は視線を戻し、官兵衛を見た。官兵衛も晴久を見ていた。
「いいぜ。お前の連れになってやるよ」
す、と吹き抜けた風には幽かに潮の香りが混じっているような。つるりとした藍色に染まったそれは、眠る子を撫でるように、千夜の月光を溜め込んだ砂の海を音もなく渡っていった。
地を這え
