「お前さんを見てると偶に西海の鬼と被るんだ」
「ああ?」
「や、気の強そうなところとか、その実気のいいところとか」
「ふん」
面白くもなさそうに鼻を鳴らした相手が、しかしすっと睫毛を綻ばす。「なんだったか……」と呟いて、徐に片腕を持ち上げた。
「――鬼の棲む砂漠へようこそ。歓迎しよう」
さあと綺麗な微風が面で吹いて、砂の粒子をまっさらに洗ってゆく。そうして澄んだ世界を、己が舞台にすらりと佇む砂漠の王。優美に差し出された左手を、上からゆったりと下ろした動きは、さながら高尚な芝居の一場面のようにその場へよく映えたのである。
ぱしり、と、ひとつ瞬きをした。自分の長ったらしい前髪のお陰で、向かいの役者にはこの感嘆を見越されないだろうことが、救いだった。
「鬼か。こんなところに棲む鬼とは、どんな数奇者だろうかね。駱駝が関の山だろう」
「なんだよ、駱駝の何が悪い」
「悪かあないが、間抜けだろう」
「いいじゃねえか、可愛いぞ。駱駝」
可愛い、とは。そんな台詞を真面目くさった目で残念そうに語る晴久の、駱駝のように長く揺れる睫毛を、官兵衛は面白そうに眺めていた。