お前が俺を詰る声が、確かにしている。
もう視界は朧気で、それは俺の生命力がもはや底を突きそうなことを意味しているのだけれども、五感の一つが劣ったことで他の能力が向上したのか、聴覚はひじょうに冴え冴えとして、お前の声を、その残響まで余さず聞き拾っていた。
だから、今のお前の声が、聞いたこともないほどに狼狽を満たしていることも、お前がたしかに俺の意図を勘違って、真に怒っていることも、ぜんぶ分かる。明白に、俺の耳に届いている。
「官兵衛」
――民を置いても、何を置いても、やっぱりお前のことが、一番だいじだ。
……なんて、そんなわけがあるか。
分かってるんだろう、ほら、俺の台詞を聞くや否や、そんなに怒り狂うってことは。なら、お前、真に受けるなよ。
お前の信じた俺はここにいる。お前に俺を信じさせた魂は、ちゃんとここにある。
「……ありがとう」
最後の一言へ、全てを託した。
いくら人心の機微に鈍いからって、まさかここで取り違えたりはしねえよな?
俺の信じたお前なら。
俺を信じたお前が、俺が最初で最後の世迷言を吐いたそのほんとうの意味を、分かれない筈はない。気づけない筈はない。
そうだろ?
俺は。
俺の真意は。
――お前を最愛だと言い切れる筈もない俺が、お前に、ほんとうに伝えたかったことを。
「っ……晴久ぁああああ――!!」
狂おしいほどの信頼を、最初で最後の、素直な感謝の台詞に託した。