Ⅱ
「そんなとこで泣いていなさんな。――ほら。こっちへおいで」
背中にぎゅうとしがみついたきり物も言わず身動ぎもしなくなった晴久に、なるたけ淡々と、小さく、柔らかくなるように声を織って、投げた。
半身を捩って僅かに振り向き、どうにか片腕を広げて見せれば、存外素直に、自分のよりもうんと小さな体温が飛び込んできた。
「……なあ」
「ん?」
「………………すき」
首へ抱きついて、耳許で何を言い倦ねているのかと思えば、やがて掠れた声が沈黙にかろうじて波紋を作る。
「……。それは……小生に都合の良いように解釈していいのか」
「どんなふうに解釈すれば。一番お前にとって都合が良くなるのか、ぜひ聞かせろよ」
そんなのっけから、こちらの答えが自分にとっては都合の悪いものと決めつけたような、拗ねた言いかたをせんでも。
「お前さんのことを何よりも愛していて、お前さんから誰よりも愛されたいと思ってる小生にとって、一番都合の良いように……とまで言えば伝わるか?」
「……ふん……」
もごりと口内で蟠るような声を漏らしつつ、腕の中の体温が少し藻掻いた。
「――嘘なら要らねえよ」
ほんの少しの隙間だけ身体を離して、晴久が、こちらの目を真っ直ぐに覗く。
「お前さんなんぞのために、わざわざ吐く嘘なんかあるもんか」
故意が半分、照れから思わず出たのが半分の口の悪さでそう言うと、生真面目に強張っている晴久の目許を、持てる限りの優しさで擦った。