Ⅱ
二十九年、過ぎた。
もうじき三十年になる。
一向に出会えない。一向に。
……。
「もう、見つけられないかもしれない」
自分の口からそんな言葉が零れたのにびっくりした。ついぞ口にはしなかった……前回出会えた歳を此度は独りのまま過ごして、十年、二十年経つ毎に、幾度となく胸裏を掠めはしたが、口に出すことはけしてなかった言葉だ。
声に出してしまって、耳で聞いてしまうと、体積なんてもたないくせにそれはもうはるかな重量をもって官兵衛の肺の底へ落ちた。
――まだ、まだ大丈夫だ。
――けれど、前回があったからといって、今回もあるという保証はどこにある?
――そもそも。
――今度のこの世で、お前は元々“独りきり”なのかもしれない。
「そんなことは、ない……」
手摺に伏せていた面を上げた。眼下から伸びゆくどどめ色の海原を睨めつける。噛み合わせた前歯の緻密な隙間から、雌伏す獣のように、呻いた。
――だって、今度の世でも、小生はほら、こんなに不運じゃないか。前の世でも、その前の世でも。
「お前さんのためにとってあるんだ……小生の、幸運は……!」
鈍く光る手摺に固い拳を一度押し付け、官兵衛はくるりと踵を返した。海を見て黄昏ている暇なんてないのだ。それよりも街を具に睨んで、あいつを探し出さなければならないのだから。
それでも、官兵衛は一度だけ、階段を降りる前にちらりと元いた場所を振り返った。
明るい潮風を受けて、柔らかな銀髪を掻き上げるうつくしい横顔を、見た。
――プロポーズは、ここでするんだ。
「……待ってろよ」
今度こそ官兵衛は振り向くことなく、狭い階段を降りていった。彼の歩みに合わせて、薄い鉄板がかうんかうんと鳴く音が塔の内部に反響していた。
* * *
官兵衛×晴久で『君はため息を吐きながら 、「もう、見つけられないかもしれない」と、言った。』そんなお話をかいてください。