ネロファウ

かささぎの渡せる橋を

 薄白く光る鳥が羽ばたいて、最後の一歩を埋める。
 夜空のあちらとこちらとを繋ぐ、白鳥の架け橋が浮かび上がった。
 飴細工のようなとろりとした乳白色は、どこか幻想的に柔らかく、しかしここから見えるどんな一等星よりも、白く、しろく、光を放っており――
「眩しっ……」
「眩しっ……」
 ぼそっとした声が重なって、思わず横目で見る。
 ネロはファウストを、ファウストはネロを。拳一つ分ほど空けて隣に立っている相手の顔を見て、目が合って、どちらからともなく苦笑した。
「……これを渡るのか……」
「目が眩んで落っこちそうだな……なあせんせ、そのサングラス、ちょっと貸してよ」
「絶対に嫌だ」
 真っ白な橋を渡ってゆく一団の最後尾を、並んで緩慢に歩きながらぼやく。ネロはあからさまに甘えるような仕草を作って、繋いでいない方の手をファウストの方へ伸ばす。ファウストは、手癖の悪い指先から守るように、繋いでいない方の手でサングラスのつるを押さえて、つんとそっぽを向く。
 一連の、冗談なような切実なようなやりとりを終えると、ふらっとまた目を見交わして、淡く笑い合う。
「……スノウがだいぶいい線いってるし、あいつとブラッドに投げときゃもう大丈夫だよな……」
「そもそも僕は目付役として来ているだけだから……」
「いや俺だってそのつもりなんだけど……ほら、万が一子どもらが本命として駆り出されるようなことがあったら、そんときゃ流石に前に出た方がいいよな、くらいの覚悟はしてるんだよ」
「薄っぺらい覚悟だな? 既にアーサーに先陣を切らせておいて、よく言うよ」
「それは俺も思った」
 真っ白い光の中を、圧し潰されそうな陰気な言葉をゆるく投げ合いながら、歩く。光に圧し潰されそうな薄暗い苦笑を、口の端に湛えて、歩く。
「賢者も浮ついているな……」
「ああ。綺麗なもの、好きみたいだからな。楽しそうでよかった」
「……綺麗、か。まあ確かに」
「あんたもこういうの、嫌いじゃないだろ? まあ、俺らみたいなのには、今回のはちょっと眩しすぎるけど」
「はは。本当にな」
 ――目が眩んで、落っこちないように。
 二人が、星空に架かる橋を渡る間、肩の触れ合う距離で手を繋ぎ合っていたのは、まったくの無意識だった。また、渡りきってしまって、絡めていた指をするりとほどくときになってさえも、お互いにそうと意識することはなかった。二人はついぞ、気付かないままだった。
 ネロはファウストを、ファウストはネロを。頼り合って、かずらのように手繰り寄せた互いの手のひらだけを、命綱にして、寄る辺ない波間に漂うような、ぬばたまの夜を越えたことを。

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